第105回薬剤師国家試験 総評

第105回 薬剤師国家試験 総評

第105回 薬剤師国家試験 総評

第 105 回国試は、科目により差はあるが、全体としての難易度は高かった。第 104 回国試と比較するとやや難しい問題が多かった。第106回国試から適応となる「新出題基準」や「改訂コアカリ」、「実務実習ガイドライン」を意識した科目の壁を越えた連問等「総合的な力」や「考える力」を必要とする問題は継続出題された。連問は、理論の範囲で、薬理/病態の2連問が3題、化学/生物/衛生の3連問が1題、実践の範囲で、法規/実務の4連問等で、リード文が長文で患者背景、処方、検査値等を理解するための読解力を必要とする問題もあった。また、実務実習で体験する「代表的な8疾患」についての問題は105回国試でも多く出題されていた。それらの疾患だけでなく、臨床現場での対応能力が備わっているかを問う問題が多く出題されていた。病院での薬剤師業務の役割に関する問題も多いが、「地域包括ケアシステム」の中での健康サポート薬局の役割やかかりつけ薬局が果たさなければならない役割、「ポリファーマシー」、「重複投与」、「残薬」をふまえた処方提案等、薬剤師の職能を発揮するための知識や判断力が求められていることが伺える内容であった。
*薬ゼミ自己採点システム2月25日15:00データより、11,240 名の入力情報をもとに作成したものであり、そのうち、新卒者 8,330 名の平均点は 237.4 点であった。
*必須問題の難易度が高かったため、足切りにかかる受験生がいると予想される。
*禁忌肢と思われる選択肢(薬ゼミ予想)を選んだ受験生はほとんどいない。

必須問題

必須問題は、科目により平易な範囲もあったが、全体としては難易度が高く、近年の必須問題では最も難しい問題であった。既出問題の類似問題も出題はされているが、そのままでの出題ではなく、周辺知識を学修しないと解けない問題であった。構造式、図(問42等)、グラフ等を用いた問題が多く出題された。例えば、腎臓の模型図から腎盂を選ばせる問題(問 11)が出題されていた。新傾向としては、胚性幹細胞の樹立についての問題(問 14)や筋ジストロフィーについての問題(問 62)等が出題された。必須問題でも臨床現場での薬剤師業務(健康サポート薬局の活動)についての問題(問87)等が出題されていた。

理論問題

理論問題は、例年通り難しく、第104回国試とほぼ同等の難易度であった。特に薬剤と治療は非常に難易度が高く、物理と化学も昨年同様に難しかった。化学・生物・衛生の3連問(問119~121)が出題された。化学では、糖尿病治療薬アカルボースの構造式、生物ではグルコースの輸送過程、衛生では糖質の消化・吸収について問う科目の繋がりを理解して解答する総合的な力が求められた。104回国試に続いて、薬理/病態の2連問が3題出題された。改訂コアカリに準じた出題であり、科目の壁を越えた学修が求められていた。例年通り、実験考察問題(例:問116 ウエスタンブロット法)、計算問題、グラフや図を用いた問題等、難易度の高い問題が多く出題されていた。

実践問題

実践問題は、104回国試と比較すると難しく、特に実践の複合問題「実務」の範囲で臨床現場の問題が多く出題された。服薬アドヒアランスに関する内容で法規2問/実務2問の4連問(問310~313)が出題された。共通リード文が長く、複数個の疾患名が記載されている等、多くの情報の中から必要な情報を選択して判断する問題が多く出題されたため、今まで以上に読解力が求められた。出題内容としては、オリンピック・パラリンピック等、話題性のある内容も出題された。

各科目総評

物理

[難易度]必須問題「やや難」、理論問題「難」、実践問題(物理:「やや難」、実務:「やや平易」)
[必須問題]出題範囲は、物理化学2題、分析化学3題であった。分析に用いる器具の問題(問1)や、有効数字を理解したうえで解答する問題(問4)があった。既出問題の知識だけでなく、周辺知識が確認・定着できていないと解答が難しかったと思われる。
[理論問題]物理化学4題、分析化学5題、放射化学1題であった。物理化学はグラフ、イラスト、公式等が与えられ、知識を活用して解答する問題(問94、95、100)があった。分析化学は日本薬局方の問題(問91、92)が多く出題された。また、治療薬や生体膜電位の原理等、医療を意識した問題も出題されている。既出問題は、周辺知識を習得しておく必要があった。
[実践問題]物理の出題は分析化学の出題が多く、画像診断の問題(問201)、医薬品の分離・分析の原理を問う問題(問199、203)等、医療を意識した出題があった。実務では、検定のグラフ読解問題(問198)、造影剤の周辺知識の問題(問200)等があった。
[全体]既出問題からそのままの出題はなく、グラフ・イラスト・公式・構造式等から考えて解答する問題が多かった。医療現場の現象と物理の基礎知識をリンクさせようという意図が伺えた。今後も既出問題の キーワードを暗記するだけでなく、理解して解き、出題されている内容を応用できるようにする必要がある。

化学

[難易度]必須問題「平易」、理論問題「やや難」、実践問題(化学:「やや難」、実務:「やや難」)
[必須問題]近年の傾向通り、構造式が多く出題されており、メチルカチオンのルイス構造を問う問題(問6)や、キラルな化合物を選ぶ問題(問9)等が出題された。また、文章に示された化合物の中から該当する酸化数をもつ化合物を選ぶ問題(問8)が出題された。また、必須問題として初めて、生薬の生合成経路に関する問題(問10)が出題された。
[理論問題]近年の傾向通り、生薬の1問を除き、図や構造を絡めた問題であった。化学反応において、反応エネルギー図から反応の種類を読み取る問題(問103)や、反応の過程や置換基の効果等、理解を要する問題(問102、104)が出題された。また、生体内反応に関する問題(問105、106)や、生物/衛生との3連問(問121)で糖尿病治療薬のアカルボースの構造も出題され、全体を通し、「考える力」を必要とする問題の出題が多くみられた。
[実践問題]化学は5題とも構造を絡めた出題であった。腸溶剤の粉砕による影響を生体内反応に当てはめる問題(問206)や、プロスタグランジン及び関連化合物の安定性や特徴を構造から判断する問題(問213)等、読解力を必要とし、考えさせる問題が出題された。また、アンチ・ドーピングにおける禁止薬物を構造で選ぶ問題(問214)も出題された。
[全体]難易度はやや難であった。ほとんどの問題において構造が関与しており、暗記ではなく、構造を見て判断させる内容が出題されていた。生体成分の構造や生体内の代謝反応を絡めた問題等、既出問題の習得のみでは解答は難しく、「考える力」や「構造をみて判断する力」が要求される問題が多く出題された。

生物

[難易度]必須問題「中等」、理論問題「中等」、実践問題(生物:「中等」、実務:「中等」)
[必須問題]図や構造から判断させる問題が5題中3題と多く出題されたこともあり難易度は例年より高かった。機能形態学1題、生化学2題、分子生物学1題、免疫学1題であり、微生物学からの出題はなかった。腎臓の模式図から腎盂の位置を解答させる問題(問 11)、多糖類の構造(問12)やアミノ酸の構造(問13)のほか、再生医療に関与するES細胞の樹立(問14)が出題された。
[理論問題]104 回国試と比較して、既出問題やその周辺知識の理解により解答を導くことができる問題が多かった。機能形態学3題、生化学3題、分子生物学2題、免疫学2題が出題され、微生物学からの出題はなかった。図表を用いた問題は4 題であった。このうち、実験考察問題として免疫沈降及びウエスタンブロット法(問116)が出題されており、与えられた情報を正確に理解し推測する総合的な力が求められた。化学/衛生との3連問では糖質の消化・吸収過程のプロセスを示す模式図から糖の輸送過程について解答する問題が出題された。
[実践問題]生物では機能形態学4題、微生物学1題であり、機能形態学が多く出題された。薬剤の特徴に関する問題が多く出題されており、薬剤投与による心電図の変化(問217)、トロンボモジュリン製剤の構造(問221)、抗血栓薬の作用(問223)等が出題された。
[全体]104回国試と比較して必須、実践の難易度は難化、理論は易化した。理論は、104回国試と比較して既出問題の理解により解答しやすい問題が多く出題された。一方で、図や構造、実験内容から判断する 力を必要とする問題も出題された。実践実務では、医師や患者に対する薬剤師の対応について、実践生物では薬剤の構造や作用等の特徴が幅広く問われた。

衛生

[難易度]必須問題「やや平易」、理論問題「やや平易」、実践問題(衛生:「中等」、実務:「やや難」)
[必須問題]出題範囲の配分は健康:環境=6題:4題であった。特徴的な問題は、図の問題(問16)、構造の問題(問23)であった。特に問23は、作用部位を問う深い知識を必要とする問題であった。感染症法で消毒等の対物措置が必要な感染症を選ぶ問題(問19)が初めて出題された。
[理論問題]出題分野は健康:環境=11題:9題であった。例年通り、図表やグラフの情報を読み取る問題が5題(問 126、128、129、130、138)、構造問題が3題(問124、132、133)、計算問題はなかった。出題傾向は既出問題がベースであり、文章をしっかりと読めば解きやすい。糖の消化・吸収を糖 尿病治療薬と絡めた化学/生物/衛生の3連問(問119)が出題された。
[実践問題]難易度は衛生が中等、実務がやや難であった。衛生の出題範囲は、健康:環境=6題:4題であった。特記として、問226-227では問題に記載された基礎疾患等の情報を総合的に判断し、解答を出す形式であった。高齢化を意識する問題として、認知症の画像診断(問242-243)や、地域医療に根差した薬剤師に関する問題として、健康サポート薬局の役割(問240-241)が出題された。
[全体]全体の難易度は中等であった。衛生の出題範囲は、健康:環境=23題:17題であった。出題傾向は、問題を解く際に最後まで文章をしっかり読み解く力が必要な問題が多くなっている。また、既出問題ベースの出題が多いが、問題の周辺知識を学修することが重要である。

薬理

[難易度]必須問題「やや平易」、理論問題「平易」、実践問題(薬理:「やや平易」、実務:「やや平易」)
[必須問題]既出薬物の作用機序を問うものが中心であるが、グラフの考察(問29)や、構造活性相関(問37)が合計2題出題され、例年に比べると考える問題が増加している。逆アゴニスト(問26)については初出題であり、既出問題の周辺知識を問う内容であった。
[理論問題]難易度は平易であった。未出題薬物の作用機序を問う内容は15題中5題であり、例年に比べて少かった。また、104回国試にも出題されていた薬理/病態の連問が3問あり、再発予防の目的で投与される薬物の作用を問う内容等が出題された。構造式に関連した問題が2問(問159、161)あり、必須と合わせると例年より構造式を絡めた出題が増加している。
[実践問題]全体的に、薬の副作用発症機序や、患者の状況に応じた治療薬を選択させる内容が中心であった。多くの問題が症例に処方や検査値が記載されており、薬の作用機序だけでなく、症候から患者の状況を把握し、患者に発生している問題点を解決する能力が求められていた。
[全体]全体として、難易度は平易~やや平易であった。今までの国試で出題率が高い薬物が中心に出題されるとともに、臨床的に話題性の高い初出題薬物もバランス良く出題されている。また、薬理/病態の連問も継続して出題され、薬理と病態の両方の知識を同時に活用する力が求められている。

薬剤

[難易度]必須問題「中等」、理論問題「難」、実践問題(薬剤:「やや難」、実務:「やや難」)
[必須問題]例年通りバランスの良い問題配分(薬物動態7題、物理薬剤4題、製剤4題)であった。既出問題の知識を中心とした出題であるが、図やグラフでの出題が増加(計6題)したことに加え、正確な知識が求められており(問44、問53)、104回国試よりも難化傾向である。
[理論問題]薬物動態は既出問題で問われた知識を中心とした出題で解答しやすい問題であったが、物理薬剤は全てグラフの読解や計算が必要な出題(問177~180)であり、製剤でも添加物の特性を比較し考える問題(問181)が出題されている。出題範囲としては、ADME や物理薬剤学の内容が多かった。
[実践問題]薬に対する知識を問う得点しやすい問題(問271、問272)もある反面、患者の状態から処方提案をする問題(問268、問269)や、薬剤を比較する長文を読解して考える必要のある問題(問277)等、まさに臨床現場で行われている判断力を求める問題も多数出題された。
[全体]必須と理論ではグラフや図を用いた出題が増加し、実践では患者状態や他科目の内容と関連させた出題が増加している傾向である。既出問題の知識を中心に学修を進めた上で、具体的な医薬品の特徴を理解していくことが求められている。

治療

[難易度]必須問題「平易」、理論問題「難」、実践問題(病態・治療:「中等」、実務:「難」)
[必須問題]出題範囲としては病態・薬物治療から12題、情報・検定から3題の出題であった。多くは基本的な内容から出題されているが、問62の筋ジストロフィー等、新規疾患からの出題、問66のモルヒネ換算比の出題等の臨床現場で必要な知識を問う問題も出題されている解答が困難なものもあった。
[理論問題]問題配分としては病態・薬物治療13題、情報・検定2題であった。104回国試と同様に薬理との連問が3題あった。出題頻度の高い疾患も多く出題されているが、問188のパーキンソン病に関する出題のように今まで問い方と異なる形式での出題や問189の脳腫瘍のように新規出題の疾患もあり解答は困難であった。
[実践問題]情報・検定は出題されなかった。感染症や甲状腺機能異常症、炎症性腸疾患等の問題は解答しやすかったと思われる。しかし、症例の内容を読解して解答を導く難解な問題もあった。また、ニボルマブのように臨床現場で話題となっている薬物の副作用に関する出題もあり、最新医療を意識したものが出題されていた。
[全体]必須は解答しやすい問題が多かったが、理論、実践は暗記問題が少なく、より臨床的な応用を必要とする問題が多く、解答は困難であった。情報・検定の出題は5題と例年通りであったが、解答しやすい内容であった。

法規・制度

[難易度]必須問題「平易」、理論問題「平易」、実践問題(法規:「やや平易」、実務:「やや平易」)
[必須問題]例年と変わらず出題範囲に大きな偏りはなく、近年の既出問題から得られる知識で対応できるものがほとんどであった。例年の傾向として根拠法令や背景を問う出題があるが、問73(国民医療費の増加要因)、問79(刑法の秘密漏示罪)が出題された。また、新傾向の内容としては問73、問75(条件及び期限付き承認)が初出題であった。
[理論問題]法規・制度は既出問題と関連知識で解答できる問題が多く、倫理は読解力で解答できる内容であった。例年通り、一定の範囲に偏ることなく出題されており、倫理の出題も一定数(今回は2問)見られた。また、104回同様に10年以上前に出題された内容や新傾向内容が、各問題の選択肢単位で散見されたが、基本的な知識の確認を意図としたものが多かった。
[実践問題]例年通り、様々な範囲から出題されたが、総じて既出問題の内容や基本事項、読解力等で対応できるものがほとんどであった。医療現場に関連する法規・制度(麻薬、介護保険制度、副作用被害救済制度等)や、薬剤師としての職能が発揮できる分野(特定健康診査や薬物乱用・学校薬剤師等)が出題された。 倫理については問308(コミュニケーション)だけでなく、問311では課題解決モデル(PECO、PICO)をベースとした問題解決能力を意識し、読解力を問う問題もあった。
[全体]様々な知識で臨機応変に対応可能かを判断するためか、出題順序が例年の傾向と大きく変化している。内容は、薬剤師に関連する法規・制度の理解、倫理的な内容と判断、コミュニケーション能力等、薬剤師に必要な資質や臨床現場を意識した内容が幅広く出題された。103回以降、既出問題から得られる知識と一般的な読解力で対応可能な問題が多い傾向は継続しており、今回も十分得点できるものであった。薬剤師として必要性の高い範囲は、今後も繰り返し出題されると予想される。

実務

[難易度]必須問題「平易」、実践問題(実務の単問)「やや難」
[必須問題]問題配分は、計算問題から学校薬剤師まで幅広く出題された。出題傾向としては、104回国試と同様、必須問題で2年連続の計算問題(問82)が出題され、健康サポート薬局(問87)等、話題となる内容も出題された。医薬品に関する出題(副作用、相互作用、用法用量等)はなかった。
[実践問題]問題は、褥瘡からオリンピック、学校薬剤師まで幅広く出題された。出題傾向としては、計算問題が3問出題され、周術期、褥瘡、AMR(薬剤耐性)、緩和ケア等、チーム医療に関与する内容から4問、チェックシートや図を活用する内容から7問出題された。
[全体]必須問題は難易度、出題範囲ともに正解しやすい内容であった。実践問題は周術期、AMR、オリンピック等、近年注目されている内容から出題されており、比較的解きにくい内容であった。また、かかりつけ薬局での禁煙サポートや副作用を薬剤師が発見して入院治療を行うことが出来た等「地域包括ケアシステム」での役割を示唆する問題もあった。情報活用問題も例年通り複数出題された。

合格基準についての補⾜

相対基準の導⼊は「第101回」から適⽤
平成27年9⽉30⽇ 薬⾷発 0930 第17号より】

「第104回」からは、禁忌肢も加味
平成30年8⽉31⽇ 薬⽣発 0831 第2号より】

しかし、薬剤師国家試験のあり⽅に関する基本⽅針【平成28年2⽉4⽇ 医道審議会薬剤師分科会 薬剤師国家試験制度改善検討部会】には、「当分の間、全問題への配点の65%以上であり、他の基準を満たしている受験⽣は少なくとも合格となるよう合格基準を設定する。」と記載があります。

薬ゼミの模試で国試を読む!(薬ゼミ模試と第105国試の比較)

第105回 薬剤師国家試験 総評

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